衆議院議員選挙のしくみ
衆議院の解散
日本の国会は衆議院と参議院から成っており (二院制)、それらの構成員である国会議員を選ぶのが衆議院議員選挙 (衆院選)、参議院議員選挙 (参院選) です。
参議院議員の任期は6年で、3年に一度、議員の半数を改選します。衆議院議員の任期は4年で、そのたびに議員全員を改選します。
しかし衆議院の場合、4年の任期の満了を待たずに内閣総理大臣が解散させることができます。したがって総理は、選挙を有利に進めるべく、自勢力が勝てそうなタイミングを戦略的に見計らって衆議院を解散させるのが通例です。(戦後、任期満了により解散なしに衆院選が行われたのは、1976年の一度しかありません。)
前回の衆院選は2021年10月31日に行われましたから、2025年11月ごろまでのどこかで衆院選が行われることになります。
衆院選の2つの制度
衆院選は小選挙区制と比例代表制の2つの選挙制度により行われます (小選挙区比例代表並立制)。つまり、投票所では投票用紙を2枚書くことになります。
衆議院議員の定数465名のうち、小選挙区制により289名を、比例代表制により176名を選出します。
小選挙区制
各小選挙区の有権者数がある程度近くなるように全国に設けられた289の小選挙区において、それぞれ1人の議員を選出するのが小選挙区制です。得票数が最も多い候補者が当選します。
この制度の欠点は、死票と呼ばれる、結果に反映されない票が多くなってしまうことです。たとえば、候補者Aさんが51%, 候補者Bさんが49%の票を獲得した場合、当選するのはAさんだけですから、49%の票は議席に反映されなくなってしまいます。
しかしそれ故に、上位2名の得票数が拮抗していれば、ほんのわずかな得票数の変化で逆転が起こります。各選挙区でこうした現象が起これば、全国での各政党の得票数が大きく変わることになります。小選挙区制には、このような形の政権交代を起こりやすくし、二大政党制 (政権を担う選択肢となるような大きな政党が2つ存在する状態) を促進する効果があります。
古い例ですが、2005年の衆議院選挙で第一党 (一番議席数を得た党) の自由民主党は、全国48%の得票で、小選挙区制による議席の73%を得ました。その次の2009年の衆議院選挙では民主党が第一党を奪いましたが、この時も全国47%の得票で、小選挙区制による議席の74%を得ています。このように、多くの小選挙区で少しでも追い越せるなら、飛び抜けた強さでなくても多くの議席を得られる制度なのです。
もっとも、この制度が導入されて25年以上経ち、衆議院選挙は9回行われましたが、自由民主党以外が第一党となったのは2009年の一度のみでした。2012年に民主党が下野 (政権与党を維持できず、野党に下ること) してから、自由民主党に対抗する勢力は中々まとまらず、「自民一強」とも呼ばれる状態が続いています。
比例代表制
政党名を書いて投票する制度です。したがって、どの政党にも所属していない (無所属) 候補者は、この制度では当選できません。
小選挙区に立候補した候補者も比例代表制の候補になることができます。そうした立候補は重複立候補、逆に比例でしか立候補しない候補者は比例単独候補などと呼びます。
各政党の得票数をもとにドント式という方法を使って、176名の議席を配分します。小選挙区制と異なり、議席数は得票率にほぼ「比例」し、少数派の政党でも得票数に応じた議席を得られます。
各政党は事前に候補者に順位をつけた名簿を提出し、たとえば5の議席が得られれば、小選挙区制で当選した候補者を除いた上位5位までの候補者が当選します (拘束名簿式)。順位は自由に決められるので、名簿を見れば、その政党が誰を優先的に当選させたいと思っているかがわかります。
同順位の候補者を複数置くこともできます。その場合、小選挙区での戦績の惜しさ (惜敗率) の順に当選します。
このように、日本の現在の選挙制度は、二大政党制を促進する小選挙区制を中心としつつ、多党制を促進する比例代表制をも併用した制度になっています。
選挙協力のしくみ
現実には日本では二大政党制は確立されておらず、多くの政党が活躍しています。しかし衆議院選挙で小選挙区制を上手く利用して勝つためには、各選挙区で似たような候補者が複数擁立することを避け、候補者を「一本化」することが重要です。票が分散してしまうと、多数派になれる可能性が大きく下がるからです。そうした理由で行われる協力を選挙協力などと言います。
たとえばある選挙区で、A党の候補者A、B党の候補者B、C党の候補者Cが立候補していて、それぞれ 45%, 40%, 15% の支持を集めているとします。当選するのは1人だけなので、この場合候補者Aが当選します。
しかしB党とC党は色が近いので、たとえば候補者Cが立候補を取り下げ、支持者に候補者Bへの投票を呼びかければ、候補者Bが当選する見込みがあります。
もちろん、党が違うことにはそれなりの理由がありますし、各党には譲れない立場、各候補者には譲れない政治生命があるので、選挙協力は簡単なことではありません。しかし協力に成功すれば、得られる票数が大きく変わり、また死票が減るため、より民意に応えることができます (上の例では死票が55%から45%に減っています)。逆に、元・多数派である政権与党に対抗する勢力が分裂しているような状態では、相手を利することにしかなりません。
上の例ではC党が損するだけですから、協力を実現するためには、何らかの条件が必要です。具体的には、次のような協力があり得ます:
- 各選挙区で擁立を譲り合う。C党が擁立したい選挙区にはB党は擁立せず、支持者に候補者Cへの投票を呼びかける。
- B党は、擁立が被ってしまうC党に擁立を取り下げてもらう代わりに、有権者に「比例はC党へ投票してください」と呼びかける。
- もし政権与党になることができたら、連立政権を組む (一緒に政権を担う)。国務大臣 (閣僚) のポストを適宜譲り合う。
- 政策で歩み寄る。譲れる部分は譲り、譲れない部分もなるべく話し合う。(もし対立が収まらず「連立を抜けます」と言われてしまえば、政権へのダメージは甚大なので、譲歩せざるを得ません。)
どれも苦しいことですが、うまく穏健な協力関係を結べれば、選挙に強くなれるのみならず、政権を勝ち取ったあとの政権運営もスムーズになります。
現実の選挙協力
現在の与党勢力である自由民主党 (自民党) と公明党は、2000年から選挙協力を始め、今に至るまで強固な協力関係を結んでいます (自公連立政権)。2003年以降、同じ小選挙区に両党の候補者が出馬したことはありません。また、小選挙区で公明党の支援を受けた自由民主党候補が「比例は公明へ」と呼びかける場合がしばしばあります。[1]
長く強固な協力を結べている自公とは対照的に、最近野党勢力は、それぞれの事情もあって、協力関係を結ぶことに苦労しています。野党間の選挙協力は「野党共闘」とも呼ばれ、その行方が注目されています。
前回の衆院選 (2021年) では、野党第一党の立憲民主党と、日本共産党、社会民主党、れいわ新選組の4党が政策協定を結びました [2]。立憲民主党と立ち位置が比較的近い国民民主党はこれには乗らなかったものの、これら5野党は289の小選挙区のうち213選挙区で候補者を一本化しました。結果は、支持が十分に集まらなかったために59勝に留まりましたが、一本化していなければ獲得議席がより少なかったことは確実です。[3]
前回の衆院選を終えたあとは、結果が奮わなかったこともあって、4党の足並みは揃っていません。立憲民主党の泉代表は、日本共産党との連携について「白紙にする」と述べました [4]。国民民主党は、自公との政策協議を始め、2022年度の政府予算案に賛成するなど、他の野党とは違う動きをみせました [5]。その後の参院選では、野党候補者の一本化は一部分に留まり [6]、今後の各党の協力の行方は不透明です。
また大阪府においては、日本維新の会と公明党が選挙協力を行い、19の小選挙区のうち15小選挙区で日本維新の会が、4小選挙区で公明党が、候補者を完全に住み分ける対応をとりました。これは、大阪市議会では日本維新の会は単独過半数を持っておらず、公明党と協力関係を結んでいることがきっかけです。公明党は全国で自由民主党と完全な選挙協力をしているため、大阪府で候補者を擁立した4つの小選挙区では、自由民主党候補も日本維新の会候補も立候補しない形となりました。
大阪府での結果は、維新・公明の全勝となりました。ただし、日本維新の会の馬場代表が2022年9月、「協力はすべてリセット」して白紙にすると発言するなど、今後の協力継続は不透明です。[7]
選挙協力の行方は、本サイト上の地図でわかりやすく見守ることができます。小選挙区総合ページの「すべての選挙区」の地図で、「擁立状況」を選択し、色々な塗り方を試してみてください。候補者が競合している選挙区は黒色になります。
国政はひとくくりに語られがちですが、実際のところ、地方によって各政党の関係や支持される度合いは大きく違います。そうした傾向もぜひ探してみてください。